作業療法士は対象者の健康と幸福を促進するため個人ー環境ー作業の視点から多様な支援を提供します。
多様な支援は目的と状況に応じて対象者にとって最適な方法を選び提供するという高度な判断が求められます。
うまく行っている場合はよいですが、うまくいかない、困った事例も経験します(^_^*)
困った時は作業療法士自身、対象者との関係性において当事者になっているため思考が狭くなり、最適な方法を選択するという判断能力が機能しにくくなっていることがあります。
そんな時に知っておきたいのが、今回紹介するヒトがもつバイアスである「ソロモンのパラドクス」です。
「ソロモンのパラドクス」は簡単にいうと人と人とのつながりにおいて、自分が正しい判断をしなければならないと思った時、まちがった反応をしやすい傾向、もしくは「他人のことはよくわかるが、自分のことはよくわからない」という傾向です。
「ソロモンのパラドックス」は、カナダ・ウォータールー大のイゴール教授が研究の中で名付けた用語です。
旧約聖書にでてくるソロモンは深い知恵をもつ王でしたが、自分のことになると失敗やミスが多かったと言われています。
それが「他人へのアドバイスは的確だが、自分のことになるとつい間違った判断をしてしまう」、すなわち「ソロモンのパラドックス」の起源とされています。
イゴール教授は次のような実験を行いました。
まず被験者に2パターンのシナリオを想像してもらいました。
1. 自分の身に対人トラブルが起きたシーン
2. 友人の身に対人トラブルが起きたシーン
その後
・全体の状況に対してトラブルに対応するための自身の知識の限界を把握できているか?
・トラブルに対して妥協できるポイント 、多様な落としどころが的確に見えているか?
といった能力に違いが出るかを把握するために全員にアンケートをとり、集計分析をしました。
結果は友人の身に起きたトラブルを想像したグループのほうが、冷静で総合的な判断をする確率が高くなっているという結果になりました。
この研究は、「ソロモンのパラドクス」、他人事なら冷静に判断できることを実証したものになります。
作業療法でうまくいかない時、作業療法士と対象者は当事者同士であり、適切な介入のための判断が鈍くなっています。
つまり「ソロモンのパラドクス」に陥っている状態と考えられます。
「ソロモンのパラドクス」から抜け出し、当事者どうしの関係性で成立している作業療法の介入、支援においてよりよい選択をするためには、イゴール教授の実験が示しているように他者の視点を導入することが必要です。
他者の視点を導入し最適な判断をするためには簡単な事例報告書を作ってみることがおススメです^_^
メモ程度でいいので、うまくいかない状況や原因を文字化することで、客観的な視点で分析、判断できることが期待できます。
もちろん同僚や先輩に相談することも、直接的に他者の視点を利用することにもなりますね^_^
うまくいかない、困った事例に遭遇した時は、当事者として責任をもって対応するという意識は大事ですが、その意識が過ぎることでさらにうまくいかないといった状況に陥りがちです。
そんな時は「ソロモンのパラドクス」の存在を思い出し、他者目線で意思決定、判断できるようになりましょう^_^
参考文献