作業療法士のためのポジティブ心理学13ではポスト・トラウマティック・グロース(以下PTG)について取りあげます。
PTGは「心的外傷後成長」、「トラウマとなるような出来事を超えて、変容したといわれるまでの人格的成長をすること」とされています。
セリグマンの研究では、人生で起こり得る15の最悪なこと(拷問、重病、子供の死、レイプ、投獄など)をリストにした心理テストを1700人に実施。
その後最悪な経験のうち少なくとも一つを報告した対象者に、ウェルビーイングに関連するテストも実施。
すると最悪な経験をした人は、最悪な経験をしたことがない人に比べてウェルビーイングの度合いが向上し、強さや成長を感じていたとの報告をしています。
またPTG研究の第一人者であるリチャード・テデスキとリチャード・マクナリーはPTGにおける個人的な変化の特徴として、①生きていることに改めて感謝するようになる、②1人の人間として一層強くなったという実感を得る、③新たな可能性に向けて行動するようになる、④人間関係が改善される、⑤精神的(スピリチュアル)な深化があるとしています。
テデスキは心的外傷後成長尺度を作成し、PTG後の現象についての測定し、研究をしています。以下尺度の項目の一部です。
・自分の命の大切さを実感した
・精神性や神秘的な事柄について理解が深まった
・自分の人生に、新たな道筋を築いた
・他者との間で、より親密感を強く持つようになった
・その体験なしではありえなかったような、新たなチャンスが生まれている
・人との関係に、さらなる努力をするようになった
・思っていた以上に、自分は強い人間であるということを発見した
さらにポジティブ心理学者イローナ・ボニウェルはPTGを起こす条件を3つ提唱しています。
①人生全体として、起きた出来事の意味を理解し直す
②逆境に対して、自分で態度を選択できることを知る
③人からの支援が不可欠
PTGという現象は、人生における困難やそれを乗り越えた経験によって、短期的にはそれまでの日常を失う経験であるが、長期的には新たな関係や人生における価値、意味、機会を獲得することにつながることを教えてくれます。
作業療法士は対象者とともに受傷後の新たな身体の使い方、新たな作業の仕方、新たな環境との相互作用という経験を通じてポジティブ感情や達成感、自己効力感を引き出すことで、対象者の疾病や障害後の成長を促すことができるのはないでしょうか?
次回作業療法士のためのポジティブ心理学14では、人間関係、利他的行動、貢献をキーワードに幸福につながる作業や活動についてまとめていく予定です。
参考文献