作業療法士のためのポジティブ心理学11では、ユーダイモニア的幸福を経験する上では、避けて通れない困難な事態への対処の仕方についてまとめていきます。
ユーダイモニア的幸福は自身の強みを活かして、意義のある活動に取り組むことで得られるものです。
意義のある活動と感じるためには、自身の強みを活かしながらも、自身の能力を少し超える課題に取り組む必要があります。
ストレッチゾーンと呼ばれる領域であり、そこには課題を取り組む中で困難な状況に遭遇することでの一時的な不安や葛藤、苦痛を経験することになります。
つまり困った状況に遭遇するわけです。
ポジティブ心理学では困った状況への対応としてコーピングという手法、考え方を提案しています。
コーピングには問題解決法という意味で「問題焦点型」「感情焦点型」「回避型」の3種類があります。
「問題焦点型」は、困難な状況の背景、問題点を特定し、その問題点に直接働きかけ解決を図ります。
困難な状況を分析、単純化することで、構造化し、対処しやすい形に変換することで、対処の難易度を低く設定することができます。
作業療法の現場であれば、対象者の困難な状況を、PEOモデル(個人、作業、環境)によって分解することで、それぞれに応じたアプローチを提供するという考え方に対応します。
「感情焦点型」は困難な状況、問題によって生じる感情の緩和を目指します。
まずは抱えている不安や葛藤といったネガティブ感情を他者に表現する、伝えること、または書き出すことで自身の感情の調整します。
ネガティブ感情を抱いている時は、大脳辺縁系の活動が優位となり前頭前野の活動が抑制される状態です。
これは思考を司る前頭前野がうまく機能しなため、問題解決のための思考が狭くなり、問題解決に向けた新たな発想や行動選択が難しくなります。
ネガティブ感情を他者に伝える、書き出すことは自身の感情を言語化することであり、冷静さを取り戻す、つまり前頭前野を活性化させる活動です。
感情焦点型の対応により大脳辺縁系の活動を抑制、緩和することで、困った状況を乗り越える状況を整えることにつながります。
「回避型」は、困難な状況から一時的に回避するため別のポジティブ感情を伴う活動に取り組みます。
一時的に別の活動に従事することで、ネガティブ感情から解放され、ポジティブ感情を経験します。
ポジティブ感情には、思考を拡散させるという特性があるため、一時的に回避している間に、困難な状況に対する打開策を考えやすい状況を整えることができます。
作業療法の場面は、まさに対象者が困難な状況の真っ只中にあります。
困難な状況に立ち向かい、乗り越えていくために、最初はセラピストの力をかりながら、徐々に自身の強みつまり、残存機能や潜在能力を発揮し意義のある活動に取り組んでいく必要があります。
今回提案したコーピングの3つの種類を知っておくことで、正攻法に困難な状況に立ち向かうことだけでなく、時には回り道の手法(感情焦点型、回避型)をとることも困難な状況からユーダイモニア的幸福を提供できる支援であると言えるのではしょうか?
次回作業療法士のためのポジティブ心理学12では、もう一つの困難な状況への対処の考え方として、レジリエンスについて取り上げます。