医療専門職である作業療法士が、まわりの作業療法士から差別化を図り、社会に貢献できる人材として生き残っていくためには、医学領域だけの勉強では十分でないと感じています。
AIの時代になっても作業療法士という職業は残ると言われていますが、個人レベルで作業療法士として働き続けていけるかは別問題と考えて、研鑽する必要があると考えています。
もちろん作業療法士として医学に基づいて対象者の健康と幸福を支援する知識、技術を高めていく必要があることは否定しません。
またOT協会が開催している現職者研修の履修やMTDLP実践者、認定作業療法士そして専門作業療法士の取得は作業療法士としての質を向上させ、差別化に繋がると考えます。
一方で社会に貢献する作業療法士として差別化を図る為には、医学以外のより幅広い学問領域の知識を吸収し応用していくことが必要であると考えています。
今回は医学領域以外で作業療法士が学ぶべき学問領域を提案してみました。個人的な見解ですが参考にしていただければ幸いです。
①ポジティブ心理学
従来の心理学がストレス、鬱、異常行動など人の不適応行動を是正することに傾倒してきたことを批判し、個人のウェルビーイング、希望、幸福感、強みに焦点をあてて、そうした感情や特性が生じるメカニズムを解明し活用していくための学問です。
特に強みに基づいたアプローチの提唱は人材育成、組織論、コーチング、精神医療など領域で有効であることが実証されています。
OT協会の作業療法の新しい定義の冒頭に「人々の健康と幸福を促進するために…」とあります。一方で卒然、卒後ともに幸福に対する教育機会は少ないと考えています。
幸福についての知見を得て、幸福を促進する作業療法を提供するためには必須の学問領域であると考えています。
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②行動経済学
行動経済学は人の短期的な意思決定と行動選択を研究、その特性を明らかにしてきた学問です。
目の前の快楽を優先し苦痛を先延ばしにする傾向を現在バイアス。
何か問題があってもそれを変えることに要するコストを嫌う傾向としての現状維持バイアス。
不確実性、リスクのあるもとでの意思決定は確実性を優先し、損失を回避する傾向にあることを示したプロスペクト理論。
人は利他性や互恵性といった他者との関係に基づいた意思決定をする傾向としての社会的選好。
意思決定にかかるエネルギーを省力化するためのヒューリスティック。
いずれも作業療法の対象者の意思決定や行動を理解するために非常に役に立つ学問であると考えています。
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③進化心理学
進化心理学では現代人が抱えている問題(肥満、慢性疼痛、うつ、不眠、不安、ストレス、生きづらさなど)は、人類がおよそ200万年間狩猟採取生活をしてきたことに基づく進化の内実(狩猟採取生活と現在生活とのギャップ)にあることを示しています。
現在の人類の心身や行動は進化の段階として狩猟採取生活をしていた頃に最適化されており、飽食で刺激や情報が氾濫し、生きていく選択肢や価値が多様な世界に適応できていない存在とされています。
進化、適応上のギャップのある世界でよりよく生きてくための対処法やヒントを進化心理学は教えてくれます。そして作業療法の対象者の理解と支援にも役立つ学問であると考えています。
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以上、差別化を図るために役立つであろう学問領域を提案しました。いずれの学問も作業療法の対象者の理解を深め、医学以外の知見に基づいて対象者の健康と幸福の促進に貢献できる学問であると考えています。ぜひ勉強してみてください。