2019/7/21〜23、米子にて本邦初開催であった「作業療法のためのPNFアプローチ」を受講してきました。
講師はドイツの理学療法士でIPNFAシニアインストラクターとボバースアドバンスインストラクターであるベネディクトブーマー先生でした。
ベネディクト先生は「身体はPT、頭はOT」と自称され、とてもポジティブかつエネルギッシュな指導で、3日間常に楽しく学習できました。
内容は手、上肢機能の回復とそのトレーニングに焦点を当てたものでした。
神経学と運動学を背景にPNFとボバースに基づく治療、トレーニングの提示がありました。
今回はそこでの内容について少しずつまとめていきます。
手、上肢の治療に求められることとして、まずは姿勢制御の重要性について解説とその促通方法について提示がありました。
特に四肢の運動に先立って生じる腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋群の活動(コアスタビリティー、予測的姿勢制御)の重要性について説明がありました。この点はPNF、ボバースともに共通しているところです。
特にその解説で興味深かったのは、以下のような代償の連鎖です。
腹横筋の活動低下→胸郭が不安定→腹斜筋、横隔膜の機能不全による呼吸機能の低下→代償的な僧帽筋、頸部伸筋群の過緊張→上肢屈筋の過緊張
骨盤底筋群の活動低下→坐骨が外側に開く(骨盤底筋群は左右の坐骨を近づける働きがある)→腸骨が閉じる方向に動く→仙腸関節の圧力が高まる→仙腸関節関節由来の侵害受容性疼痛の発生
より機能的な上肢、そして腰痛の予防や改善のためにもコアスタビリティーに基づく姿勢制御の獲得が必要であることを再認識しました。
次にコアスタビリティーの促通の方法です。多裂筋の活動に基づく骨盤の前傾の動きをトレーニングします。これもPNF、ボバースに共通するところですが、今回提示された練習方法は両者で若干異なりました(ただし僕の知る、経験する範囲です。ボバース、PNFともに動きを誘導する方法は多様であり、患者さんの状況によって変わるので固定的に考えない方が良いです)。
今回は以下の手順での動きの誘導の提示がありました。
①左右の上前腸骨棘を触刺激し動きの起点となる身体部位の認識を促す
②左右の大腿部の前面を触刺激し上前腸骨棘を動かす方向の認識を促す
③セラピストは腸骨稜にハンズオンし、①②で提示した身体部位を近づけるように口頭支持しながら動きを誘導する。
④動きが確認できたら、セラピストの手は尺屈を強調し骨盤後傾方向に抵抗をかける
⑤抵抗に抗するように骨盤前傾の動きを練習する(抵抗は動きを邪魔しない程度)
⑥骨盤後傾に戻る時はゆっくり動くように促し、多裂筋の遠心性の活動も促す(PNFではコンビネーションオブアイソトニックというテクニックで遠心性の活動も合わせて練習します)
文字で伝えるのは限界があるので後日動画を貼り付けようと思います。
僕の経験に基づくと、ボバースではハンドリング主体で(口頭指示なく)、多裂筋の収縮を直接的にセラピストの手で促します。また抵抗をかけることはありません。
今回提示された方法は身体部位の認識に基づいて動きの学習を図る、そして抵抗をかけるといった戦略を使っていました。PNFの特徴である抵抗をかける、抵抗を手掛かりに動きの認識と促通を図るという点が違いました。
身体部位の認識を促すことで頭頂葉を活性化→認識した部位の情報に基づいてを動かす方向をプランニングさせることで前運動野(補足運動野もしくは運動前野)を活性化→予測的姿勢制御の経路である腹内側系(網様体脊髄路)(下の図では緑のライン)を活性化させるという神経学的な説明がなされていました。
また抵抗をかけることで求心性、遠心性に多裂筋の活動を促通します。特に遠心性の活動(ゆっくり後傾位に戻す)も姿勢制御のための腹内側系を促通する上で重要であることを強調されていました。
手法の違いはありますが、上肢手の機能改善のためには、その背景となる姿勢制御のトレーニングが重要であることを再認識した次第です。
次回は作業療法士のためのPNFアプローチ②では姿勢制御を背景にして肩甲帯の安定化のためのトレーニングと考え方について、ベネディクト先生の研修会で勉強したことをまとめます。