身体障害領域の作業療法では、患者さんの機能を最大化(機能障害の軽減)し、望まれる作業を実現するための手段として可動域、運動性の拡大を図る技術が引き出しとして必要となります。
一般的にROMex、ストレッチ、リリース、モビライゼーションなどど表現される技術です。
これらの技術を使うためには、解剖学、運動学、生理学の知識が必要なのはいうまでもありませんが、知識だけでうまく実践できるものではありません。
より効果的に上記の技術を実践できる為に必要である能力にダイナミックタッチがあると考えています。
ダイナミックタッチは、物体・道具の先を感じ取る能力のことです。みじかな例では鉛筆があります。
鉛筆で書字をすると、僕たちは鉛筆の先端(先端で触れている対象の性質)を感じることができます。先端が尖っているのか・ちびているのか、そして先端で触れている紙の材質や厚さを感じ取れます。
至って普通のことのようですが、実際に触れているのは鉛筆の胴体であるにも関わらず、直接触れていない先端を感じ取れるのは、実に不思議な現象です。
この不思議な現象、能力を使って同じように箸、スプーンの先端を感じ取って外界(食物)を操作しています。
この能力を治療の中で使うということに気づいたのは次のような経験からです。
20年近く前ボバースアプローチの研修に初めて参加した時のことです。
実技の時間に「患者さんの坐骨を感じながら、支持面を感じながら動きを誘導する」との指導を受けました。
その時は直接坐骨を触れていないのに、支持面を触れていないのにどうやって感じ取るのかまったく理解できませんでした。
その後アフォーダンスや生態心理学などを学ぶなかでダイナミックタッチという概念を知りました。
今となっては患者さんの身体と接触している部分を通じて、その身体の先端である坐骨と支持面をダイナミックタッチで感じ取るという意味であったと理解するようになりました。
ダイナミックタッチは身体障害領域のセラピストにとって、患者さんの身体部位の先端と外界との接点を感じ取る、関節の適合の状態や抵抗(エンドフィール、筋緊張)を感じ取るために利用される能力であると考えています。
動きを誘導している身体部位から受ける抵抗感が、どこの身体部位や組織(筋肉、関節、結合組織)に由来するのかを知り、その抵抗の変化に基づいて効果的に動きを促すために必要な能力となります。
作業療法士にとってROMexなどの技術は、作業の可能化を実現する為の1つの引き出しにすぎません。
ただ患者さんの運動性を制限してる身体的要因をより深く知り、その情報に基づいた支援を提供するために、誰もが持っているダイナミックタッチという能力を使い磨いていくことが大事であると考えています。

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