ビジネス領域の書籍には、マネジャー・上司がどのくらい部下に期待しているかによって、部下の扱いは微妙に変化し、期待が大きい程、その生産性が向上する可能性が高いことが言われています。一人の人間の期待が他者の行動に及ぼす影響力の重要性は、以前から医師(アルバート・モル)や心理学者(ロバート・ローゼンタール)、教師などによって報告されています。
特にローゼンタールの報告に基づいて「ピグマリオン効果」=「他人から期待されることによる学習の成績、作業の成果が上がる現象」が知られています。ピグマリオン効果が起きる背景には期待をよせる他者が、学習者に対してそれ相応の支援をすること、そして学習者がそれに応えようとする相互作用によって、期待しない群との成績差が生じることで起きる現象とされています。
さらにピグマリオン効果の逆の現象もあることが知られています。これをゴーレム効果と呼びます。
上記のテーマはビジネス、教育、人材育成の領域に限らず医療、リハビリテーションの領域にも当てはまると考えています。医療者、セラピストが患者に対してどういう期待を抱くかによって、患者の潜在能力や、活動や社会参加の範囲に影響を及ぼします。
一方で脳損傷の範囲が大きいから、麻痺が重度だから、認知症があるから、高次脳機能障害があるから、高齢だからという理由で、患者のもつ潜在能力を期待、引き出せず、挑戦的な課題への導入に消極的になることで活動や社会参加の範囲を狭めてしまっている可能性も危惧されます。もちろん、挑戦的な課題にはリスクがあるため、十分な医学的、リスク管理のもと導入する必要があります。一方で挑戦しないこともリスクと言えるのではないかとも考えます。
患者の回復の力、潜在能力に期待することで、セラピスト自身も挑戦的になり、患者とセラピスト双方の成長(回復)を促すことができると考えています。