blueskycarp’s blog

作業療法士による人々の健康と幸福を促進する為のブログですm(_ _)m

システムとしての脳障害

   脳の機能が障害された状態を学生さんや若いスタッフに説明するとき、僕は病院という組織に例えて説明することがあります。 

 

   脳も病院組織もシステムです。システムは「機構」と訳されます。「機構」とは「機能をもつ構造体」の略語です。「機能」は簡単にいうと「はたらき」という意味になります。

 

   脳は生存のため外部環境に適応的な行動を選択、企画、実行するためにはたらくシステムです。

 

   病院組織(僕の職場である回復期リハ)は、病や事故で心身に障害を負って入院している方々を社会に戻すためにはたらくシステムです。

 

   脳が損傷された状態を、病院組織で例えてみます。僕の職場は回復期病棟50床が2つ(合わせて100床)あります。一側の中大脳動脈の基幹部による梗塞で、大脳皮質の半分が機能しなくなったとします。これは僕の職場でいえば、入院患者さん100床はそのままで1つの病棟のスタッフ全員が突然退職したことと同様の事態であると考えます。ただこの場合でも求められる社会的要求は変わりません。

 

つまり100床の患者さんの社会復帰のためのリハビリテーション、支援は残りのスタッフで行うことになります。脳損傷を受けた患者さんであれば、一側のダメージを受けていない脳で、これまでと同じ生活動作の遂行を要求されることと同じであると考えます。

 

   半分のスタッフが退職した回復期リハ病院、脳の半分が障害された患者さんに、退職前、障害前と同様の仕事量を求めるとどうなるでしょうか?まず以前と同じスピードで機能することは困難になり、効率はかなり悪くなります。ゆっくりとでしか動くことができません。一人一人のスタッフにかかる業務負担は増えます。脳細胞にかかる負荷も多くなります。一側身体への負担も増えます。したがって、素早い対応、病前と同じ動作の遂行は困難になります。さらには疲れやすくなります。そしてスタッフの中にはハレーションによる意欲の低下、不平不満が増えるかもしれません。患者さんであれば、学習性無気力や身体に痛みが生じる可能性も考えられます。

 

  つまりシステムのダメージが広範囲に及べば及ぶほど、残存した機能だけで、以前と同様の社会的要請(リハ病院であれば入院患者さんの社会復帰、脳損傷を抱えた個人であれば病前と同じ動作能力)に応じることは困難になります。

 

   そこでシステムを補うことが大事になってきます。それが環境調整であったり、人的サポートを導入することになります。場合によっては社会的要請のレベルをさげて動作や生活の再構築(代償動作の活用)を考える必要もあります。

 

   脳損傷が重度の方のリハビリテーション、社会復帰にはシステム障害として大きな壁が立ちはだかっています。現在の医学レベルでは機能回復を追求しながらも、機能障害を抱えた状態での生活、人生の再構築を患者個人の帰結だけでなく、外部環境の調整や支援も加味しながら実践してく必要があります。

 

脳を学ぶ―「ひと」がわかる生物学

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リハビリテーションのための脳・神経科学入門

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