僕は回復期リハで作業療法をしています。患者さんの実際のADL状況を直接観察し、支援の手がかりを得て、日々の訓練を行います。その中には当然入浴動作も含まれます。入浴動作はそのほかのADLの中でも複数の動作、特殊な環境、状況下であることから難易度の高い生活動作になります。特に急性期病院から転院してきてはじめての入浴、浴槽につかるという経験は、患者さんによっては大きなストレスを伴う活動と考えています。
特に裸体になることによる羞恥心、冬であれば寒さ、湿度や水しぶきによる呼吸のしにくさや視覚情報の制約、そして滑りやすい環境による転倒や溺れることへの不安、そして入浴時間の時間的制約(僕の職場は一人30分)など、機能障害による身体的要因以外のネガティブな要因が動作の遂行を難しくし、患者さんを混乱させるリスクをはらんでいます。
入浴評価・支援で大切にしていることは、まずは安心して入浴ができる、入浴による心地よい経験できる、「気持ちよかった」を引き出すことです。
転院してきて入浴日、入浴時間までに余裕があれば、訓練時間に病棟の浴室に案内して、どういう環境下、どういう動作をするかをあらかじめセラピストが視覚的に提示してリハーサルを行います。
そして実際の入浴場面ではどの程度自力で更衣ができるか、洗体できるか、浴槽移乗できるかを観察しながらも、初回は難しいところは大目にサポートしながら(独力では難しいことを把握しながら)、ネガティブな要因による困難さや混乱を最小限にするよう支援します。
また支援の最中は声かけは最小限にしています。動作誘導の声かけが多くなると、混乱し動作がフリーズしたり、中には興奮される場合もあるからです。混乱し興奮まで至ると、次回の入浴に消極的になり、拒否されるケース(特に認知面の低下のあるケース)もあります。心地よい経験の提供を最優先させて入浴時間が終わるよう支援します。
作業療法の、「作業」とは「ひとの経験」と定義することができると、吉備国際大学准教授・京極先生は哲学、歴史的背景から提案されています。そして作業療法はよりよい経験を提供する、経験できるよう支援することであると提案されています。
障害を抱えてはじめての入浴がまずはよりよい経験になるよう支援することが、できる、できないを超えて大事ではないかと思っています。

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